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階段

年明け、山あいにある奈良のお寺を訪れた。

初めて訪れた、由緒あるそのお寺は、三が日の最後の日とあってか参拝客もまばらで、
落ち着いた冬の風情を漂わせていた。
400近い階段は、最初段差があまりない階段が続く。
一見上りやすそうに思えたけれど、いざ歩きはじめると意外と上りづらく、
これなら普通の階段の方が上りやすいんじゃないか、と思われるほどだった。

途中2ヶ所曲がって上までのぼると、本堂にたどり着く。
来た道を見下ろしてみると、遅い午後の日差しの中、
枯れ木に囲まれた中に、さっき通った回廊が続いている。

本堂では法要の真っ最中。
お経を上げる声が、寒さが身に染みる本堂に響き渡る。
色んなお経を聞く機会があったけれど、このお経は何か心に響くものがあった。
本堂の奥には非常に大きな本尊十一面観世音菩薩立像が鎮座している。
その立派な姿に、寒さを忘れて見入ってしまった。



階段


ちょうどこの日まで万燈会が行われているとの事、
5時からということで一旦お寺をあとにし、遅い昼食に地元名産の三輪そうめんを食べ、
草餅を食べながら付近をぶらぶら散策し、またお寺に戻った。
大晦日は下の灯籠にもろうそくの灯りが点されるそうなのだけど
この日は上の灯籠のみ点灯されていた。
下の灯籠にもろうそくの灯りが点っていたらもっと素敵だったんだろうな、とも思ったけれど
でも上のこの灯りだけの方が素敵かもしれない、と思い直した。
夕暮れで段々と夜に近づく階段を、灯籠の灯りの下もう一度ゆっくりと上っていく。

ふと見回すと、色んな人たちが、この階段を上っていた。
親子、老夫婦、友達同士、恋人たち・・・
階段の一番下に立って行く先を見つめていたら、
人生もこのようなものなのかな・・・と思えてきた。
時には低い階段を、時には普通の階段を、
そして時には険しい岩の段を上っていく。
立ち止まって周りに目をやったり、後ろを振り返る人もいれば、
途中で腰掛けて休んだり、また脇目もふらずに一心に上る人もいる。



寒牡丹


このお寺は四季折々の花で有名だという。
この日は寒牡丹が少しだけ咲いていた。
寒い中、花びらが幾重にも重なった、鮮やかなピンクの花を咲かせている寒牡丹。
優雅で華やかで可憐で、遠くからでもはっと目を惹かれる魅力がある。
自分にはない魅力をたくさん持った花だなあ、と素直に思った。
その上には寒さよけ(雪よけ?)が、しっかりとかけられていた。
この華やかな牡丹の花の美しさも、こうして守られているからこそなのかもしれない、と思った。



階段


寒牡丹を眺めたり、来た道を振り返ったり、行く先を見上げたり、
躓きそうになったりしながら、一つ一つ上った。
前を、幼子の手を引いた親子が歩いていく。
一歩一歩一生懸命階段を踏みしめる子供、
そしてその子を見守りながら、その手をしっかりとにぎりしめて
ゆっくり、ゆっくり、一緒に階段を上っていく親。
・・・何か、心にこみ上げるものがあった。
階段は大抵一人で上るものだと思っていたし、
そしてこの先、自分がこの親子のように階段を上る事はないだろうけれど、
ぎゅっと手を繋いで、支えあいながら、少しづつ階段をのぼっていく、
その、当たり前ではあるけれど「つながり」を感じさせる姿に
何かふっと頬が緩むような、心温まるものを感じ、
それと同時に何かうらやましさにも似た気持ちも覚えた。

お勤めが終わったお坊さんたちとすれ違う。
すれ違いざまに「こんばんは」と声を掛け合う。
最近はあまり見ない光景だなと思いつつ、
ふと、大学生の時、初めて英国・湖水地方に行った時のことを思い出した。
何を思ったか、初めてマウンテンバイクなるものをレンタルし
湖を回るコースをサイクリングした。
何分生まれて初めて乗るマウンテンバイク、最初はうまく乗れなくて
すぐに信号の手前で転倒してしまい、ジーンズの裾がすりむけた。
通りがかりのおじさんが「大丈夫か?」と駆け寄って起こしてくれた。
「大丈夫です、ありがとう」と答えて、もう一度トライ。今度はうまく乗ることができた。

マウンテンバイクにも慣れ、お昼用のサンドウィッチを買っていざ湖へ。
途中丘のなだらかな坂が続く。
向こうから歩いてくる人たち、自転車やマウンテンバイクですれ違う人たち、
みんな笑顔で「Hello!」「Hi!」と声をかけてくれる。
最初は驚いて「私が日本人で、よろよろと慣れないマウンテンバイクに乗っているから
大丈夫か?と思って声をかけてくれてるのかしら」と思ったのだけど、
落ち着いて観察してみると、周りの人もみんなそうして声を掛け合っている。
不思議な感じがしたけれど、少し勇気を出して、今度はこちらから
「Hello!」と声をかけてみた。
最初はドキドキしたけれど、すぐに「Hello!」と声が返ってくる。
ほんの一瞬の、ほんのささいなことだけれど、何かとてもうれしかった。
初めての異国で、知らない人ばかりで、それも慣れないマウンテンバイクで
楽しさと不安が交錯する中、ほっとするひとときだった。
人と人とのつながりって、こんな些細なことから、そしてほんの少しの勇気から
生まれることなのかもしれない。

みんな色んな気持ちを抱えて、この階段を上っている。
振り返ったり、立ち止まったり、駆け上ったりしながら。
そして時には支えあい、励ましあい、声を掛け合って。
そんな事を思いながら、2度目の階段を上る。

灯籠に照らされた回廊を通って、また本堂にたどり着いた。
夕暮れだったさっきとは違って、辺りは少しづつ闇に包まれていく。
真っ暗な、そしてしんと静まり返った本堂で、
ほんの少しだけの灯りの中で見る本尊十一面観世音菩薩立像は
明るい中で見た時とはまた違った、荘厳な迫力が感じられた。

花の季節はたくさんの人でにぎわっているであろうお寺も、
この日は落ち着いた佇まいで私たちを迎えてくれた。
きっとその季節に来たらもっと花や木々の美しさを楽しめたのだろうけど
逆に、冬のこの時期に来ることが出来てよかった、と思った。
もう真っ暗になった参道を歩き、お寺をあとにした。
また、いつかここに一緒に戻ってきたい、そう思いながら。

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Comments

あけましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします。いっぱい美味しいお話させてくださーい☆

miyaさんの日記は、いつもすごく共感する、というか、「そうそう!」と思わずつぶやいてしまうことが多いのですが、勇気を出して「Hi!」と声を掛けてみるとそこから世界がぱぁっと開けるんですよね。今、それを痛感しています。

Posted by: えみんこ | 19 January 2007 at 21:37

●えみんこちゃん
あけましておめでとう!今年もどうぞよろしくね♪
えみんこちゃんの今の状況だと、
本当に勇気を出して一言声をかけることで
色んなことが広がりそう!
気がつけばあともう少しなのかなぁ、その間に色んな世界が開けますように♪
なんだかね、パンねた以外に反応してもらって嬉しかったです~。風邪引かないように、で、ベーグル食べて頑張って!

Posted by: miya | 20 January 2007 at 00:51

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